第一話 思わぬ出会い

「サクラ!学食行くよ!」



綾の声でうたた寝から目が覚めた。



ここは札幌のT大学、
比較文化論の講義の時間だったが、
季節外れの暖かい陽気も手伝って
眠ってしまった。
どうして文系の講義は眠気を誘う雰囲気を
持っているんだろうか?



昨日はレポートの提出の為、
遅くまで起きていたので
今日は特に眠気がひどかった。



「早くしないとB定食なくなっちゃうよ」



ここの学食のB定食はボリュームがあり、
それでいて低カロリーなので、
女の子には人気が高く、
すぐに売り切れてしまう。



母がお弁当を作ってくれると言うのだが、
私はある趣味の為に
学食でお昼を食べるようにしている。



学食では食券機に並ぶのだが、
その時に私がどうしても癖でやってしまうのが、
『他人の使っている財布を見てしまう』事である。



「こらこらサクラ、また人の財布みてる、
ホントあんたって変わってるよね」



「もう小さい時からの癖になっちゃってる、
これは完全にパパの影響だよ」



もちろん中身の金額などが知りたいわけではなく、
どんな財布を使っているのかに興味があるのだ。



父は貿易会社で働いていて、昔から皮革製品、
特に財布にこだわりがある人で、
様々な皮革の財布を持っていた。



TPOに合わせるのはもちろん、
その日の気分で二つ折りや長財布を選んでみたり、
中でも財布のカラーについては時間をかけて選ぶ。



「そんな事してめんどくさくないの?」



「サクラはまだまだだな、
こだわりと言うのはめんどくさいもんなんだよ。」



そんな父の影響からか他の人が持っている
財布にどうしても目が行ってしまう、
特に男の人が持っている財布には。



女の子が持っている財布はブランド物が多い、
見栄と言うわけではないが、
女性はどうしてもそうなってしまうんだろう。



その点男子はブランドの財布を
使っている人もいるが、
正直ブランド品の財布を使う男性は
どうも好きになれない、
背伸びをしている感じもするし、
それこそ見栄のような気がするからだ。



しかし男性は女性に比べるとブランド率が低く、
様々なタイプの財布を使っているから面白い。



だが父の様に毎日財布を使い分けている人なんて
今まで出会った事がない。



まだ大学生なのだから当然と言えば当然とも思う。



そう思っていた時、
前に立っている男子に目が留まった、
黒いジーンズに黄色いシャツ、
ジーンズのポケットには、
父のコレクションの1つでもあり、
お気に入りでもある、
「ガンゾの長財布」が入っていた!



大学生でガンゾの長財布を使っている人は
今まで見たことがなかった。



その人の名前は「渡辺君」、
確か綾の男友達の友達で、
何度が話した事があったが
あまり印象には残っていないが、
おとなしい感じのする子だった。
確か同じ文化論の講義を受けていたはず。



「どうしたの?ぼーっとしちゃって」



「いや、なんでもないよ」



私と綾はいつものB定食を手に
テーブルに座った。



「ねえ、あの黄色いシャツ着てる人、
綾の友達の友達だったよね」



「あ~渡辺君?そうだよ、どうかした?」



「若い人には珍しい財布を持ってるんだよね~」



「また財布見てたの?まったく、
でなに?興味あるの?」



「ちょっと話してみたいな~
なんて思ったりして」



「じゃあヒロトに言っておこうか?」



「うん、ちょっと聞いといて、
でも声は自分でかけてみるよ」



私は積極的に男性に声をかけるのが
得意ではなかったが、
なぜガンゾの長財布を使っているのか?
何かこだわりがあるのか?
そっちの方が興味が強く、
話をしてみたいと思った。



綾がヒロト君に聞いてくれてわかったのが、
渡辺君は図書室でよく本を読んでいる事、
今日もいつもの様に決まった席で読書している事、
声をかけるなら今日のような直感が働いた。



図書室に行ってみると、
渡辺君が本を読んでいた。
周りには人がまばらだが、
話しかけるには問題ないだろう。



しかしいざ声をかけるとなると、
なんて言っていいのか少し考えてしまう。
もちろん私の事は知っていると思うが、
いきなり財布の話をするわけにもいかない。



渡辺君に関しては決して嫌なイメージはないので、
普通に友達になってから、
ゆっくり財布について
聞いてもいいかなと思っている。



まずは友達になる事から始めよう。
私は勇気を出して声をかけた。



「なに読んでるの?」




第二話 意外な自分

第三話 私が悪いの

第四話 もう一度だけ

最終話 回り道の末

特別編 彼女からのプレゼント



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